平成30年4月23日
第6回「技術協力のあり方を考える研究会」の開催(報告)
<第6回「技術協力のあり方を考える研究会」の開催(報告)>
〇はじめに

平成30年3月9日(金)午後3時から中央合同庁舎2号館共用会議室3A/3BにおいてJOPCA主催、国土交通省港湾局後援で、「国際事業に携わる若手技術者へのメッセージ/インフラシステム輸出時代における技術協力」と題して、第6回「技術協力のあり方を考える研究会」(以下、研究会)を開催した。司会進行は八尋明彦企画委員が務めた。聴講者数は61名で、このうち国土交通省本省、地方整備局、港湾管理者、JICA、建設会社、及びコンサルタントに所属する若手技術者40名余りが参加した。

103___01.zip.jpg 会場の様子

 今回の研究会目的は、昨年度の「技術協力のあり方(中間とりまとめ)平成29年3月」を受けて、①現在の技術協力は、国の港湾政策とリンクして、我が国の強みが発揮できているか?②官民の技術者は、プロジェクトの現場で、その実施に直接関与し、実体験を積むことにより、技術力を不断に磨いてゆく必要があるが、十分な技術の伝承と人材育成はできているか?③国際協力は、中国や韓国などとの競争時代に突入しているが、我が国の競争力は大丈夫か?④国際協力業務が、これまでのインフラ整備・技術協力から"インフラシステム輸出(計画、設計、建設、運営、管理)"時代へと変革しているが、これに対する体制は十分あると言えるか?という問題意識の下で

①国内の社会基盤整備事業が減少して行く中で、官・民の若手技術者が技術力を伸ばしてゆく方策はどこにあるか?②技術協力には、個人の力と組織の力の双方が必要であるが、組織力の構築はどのようになっているか? ここで組織とは、国、港湾管理者、コンサルタント、建設会社である。組織力の構築とは、システム構築であり、それぞれの組織の再構築とともに、それぞれの組織の連携強化である。③国際協力に求められる技術は、開発途上国に合致した適正技術の利用が必要であるが、若手技術者がそれら技術を理解し利用する環境を作るためには如何にしたらよいか?④国際協力に求められる技術が、要素技術から総合技術に移行する中で、これらを担う技術人像(人と組織)とはどのようなものか?という論点で議論して行くことである。

冒頭、主催者を代表して池田龍彦JOPCA会長から、上記の問題意識や論点についての挨拶があり、本研究会を契機にインフラシステム輸出時代における技術協力について考えていきたいとの挨拶があった。さらに後援者

である国土交通省港湾局を代表して菊地身智雄局長から、政府が進めるインフラシステム輸出に対応した技術協力を考える良い機会であるという旨の挨拶があった。

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挨拶する池田会長

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来賓ご挨拶をする菊地港湾局長

〇基調講演

堂道秀明氏から「インフラシステム輸出時代における港湾分野の協力とは」と題して基調講演があった。堂道氏は、外務省 中東アフリカ局 長、駐 イラン 特命全権大使、駐 インド 特命全権大使などの外交官として、さらにわが国の国際協力の最前線である国際協力機構(JICA)の前副理事長として豊富な知見と経験を有しておられる。まずは、新興国や途上国におけるインフラ需要の急速な拡大とそれに対する供給額のギャップ、さらにわが国のインド・太平洋における連結性構想などの背景説明があり、港湾分野においてインフラ市場の取り込みと価格競争力の強化、途上国に進出しようとする企業の支援、わが国の優れた技術のアピールとそれを活用したリハビリプロジェクトの相手国への提案、さらに連結性構想におけるターゲット港の絞り込みなどを具体的に提案され、50分間に及ぶ熱弁をふるわれた。

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基調講演する堂道大使

〇パネルディスカッション

池田会長をコーディネーターとして、以下の4名のパネラーからなるプレゼンテーションが行われた。まずは、海外協力基金(OECF)での経験もあり現在JICAの理事である山田順一氏から、わが国のインフラ向けの円借款、STEPの案件実績、さらには港湾分野の協力実績の紹介をはじめ、ミャンマー・ダウェー港開発を事例とする連携性の向上、バングラディシュ・マタバリ港開発を事例とする地域開発の視点、インドネシア・パティンバン港開発を事例とする迅速化への対応、カンボジア・シハヌークビル港開発を事例とする企業価値の向上、ケニア・モンバサ港開発を事例とする回廊開発、ベトナム・ラクフェン港開発を事例とするPPP方式への対応に関する6つの課題が説明された。次に、開発投資銀行の立場で現在アジア開発銀行(ADB)駐日代表である松尾隆氏から、ADBの業務内容、わが国の位置づけなどの紹介をはじめ、アジアにおける人口、経済成長、貧困率の世界シェア、アジアにおけるインフラ投資需要、PPPの促進と資本市場の強化への提言、ADBにおける一帯一路への協力関係、アジアインフラ投資銀行(AIIB)との相違点などの説明があった。次に、今年4月に改定される港湾の技術基準の改定作業において中核的な立場であった国土技術政策総合研究所港湾研究部港湾施設研究室長である宮田正史氏から、技術基準について、その変遷、途上国におけるわが国の地位低下、途上国における設計実務レベルとの乖離、海外プロジェクトに対する適用への未想定などの課題が紹介され、現在進めているベトナムにおける港湾基準の共同策定作業を通じて、若手技術者に対して仕事は国内外を差別化しない、全体俯瞰・最適への心がけ、国益に向けた踏ん張りなどのメッセージを送り、また先輩に対して若手技術者の失敗への寛容さ、その教訓のストック、さらに本省やJICAに対して海外案件の技術検討や質の高いインフラ展開に研究所も巻き込んでほしいという説明があった。最後に、国際臨海開発研究センター(OCDI)で13年間国際協力を携ってこられ、土木学会国際貢献賞も受賞された國田治氏から、役人時代の先輩からの技術伝承、また途上国において役に立つ技術として臨港道路整備へのシールドトンネル技術、鋼板セルによる防波堤建設、コンテナ形状の箱による簡易台船などを具体的に紹介、さらに借款ではなくわが国企業がリスクを負うBOT(Build opreatio&transfer system)の積極導入の提言や、安く早くを実現する技術開発は、試験と失敗の上に成り立っているとの説明があった。その後、価格競争におけるわが国の技術水準のグレードダウンに対して、宮田室長から基準レベルを落とすための難しさが説明された。

最後に、八尋企画委員から若手技術者の参加に対する感謝、技術者としての日々の切磋琢磨や官民の連携力・連帯力の重要性などについてのコメントと共に閉会の挨拶があった。

5.jpg  パネラー(右から):山田氏、松尾氏、宮田氏、國田氏

6.jpg 聴講の様子

〇交流会

研究会終了後、同じ2号館のイタリアンレストラン「ニコラスハウス」にて交流会が開催された。堂道大使の乾杯で始まり、ディスカッションをする時間が足りなかったため、交流会でも堂道大使や4名のパネラーらと聴講者らとの意見交換が続いた。最後は、国の若手技術者である四国地方整備局勤務の吉松美南女史の中締めで賑やかな中で終了した。

〇まとめ

今回の研究会の詳細な内容については、後日HPへ掲載する予定である。聴講者に対して本研究会のアンケート提出をお願いしており、その結果分析を行って、今回の聴講者へのフォローアップを含めて今後の本研究会の方向性を検討していきたい。

今回のテーマである「インフラシステム輸出時代における技術協力のあり方」は、昨年度の中間とりまとめを受けて新たに取り組んだもの。手探りの状態からスタートした企画であったため、池田会長にアドバイスを頂きながら、堂道大使をはじめパネラーの皆さんや港湾局国際企画室との議論を通じて論点を絞り込んでいった。今回の研究会をきっかけに本テーマについてさらに議論が深化・展開していければと思う。またJOPCAは、産官学のメンバーからなる組織であり、このテーマに対して適した場ではないかと思う。

最後に、昨年9月から半年間にわたる準備と当日の貴重なプレゼンテーションをして頂いた堂道大使をはじめ4名のパネラーの方々には改めて心底から敬意と感謝を表したい。

 (八尋明彦 企画委員)