平成30年2月6日
ベトナム港湾セミナー報告
ベトナム港湾セミナー報告
JOPCA企画委員 大津光孝 
概 要
 2017年12月20日、ハノイDaewooホテルにて、第2回日越港湾セミナーをVINAMARINE (ベトナム交通運輸省海事総局、以下VM)と共催で実施した。
 5年前の第1回と同日、同会場、同一共催のセミナーとなったが、当時はVM派遣JICA専門家の立場で私は現地で支援したのに対し、今回はその時の経験と人的ネットワークを頼りに、JOPCA事務局員の立場で開催準備の多くを日本で担ったという点が、大きく違った。
 幸い越日双方の多くの方の理解と協力、支援を得て、越側43名、日本側45名参加と、前回(同32+21名)を大幅に上回り、過去最大規模の海外港湾セミナーとなり、また多くの方から内容の充実した情報交換会だったと、JOPCAに感謝の言葉をいただいた。
 ここに、参加あるいは協力していただいた皆さんへの感謝を込め、また今後の参考とするために、セミナー、現地見学会等について、報告させていただく。
準 備
 開催年の1月に所用でハノイを訪問し、その際にVMを訪ねて12月半ばのセミナー共催を国際協力部Ha部長と合意でき、6月に12月20日の開催を決定した後、JOPCA会員である日建工学㈱の現地事務所のご支援を得て、7月に会場と宿泊施設を確保して、本格的な準備を開始した。
 セミナーのテーマに関しては、1月訪問時にVMから、ベトナムでは1年半前に港湾管理者を法に位置づけたが、まだ設立の検討途上であり、港湾の管理運営と計画に関する最新の知見を共有したいとの要望があった。また日越大臣合意に基づき、日本が協力して新たな港湾の技術基準作りが進められていることから、午前と午後に分けてこれらに関する講演を実施する方針を4月に固め、日越双方の講師の依頼検討となった。
 講師候補の選定と依頼は、ボランティアでかつ英語での講演と言うこともあり、毎回大きな課題である。今回、午後の部は国総研で以前からベトナムへの技術基準移転に尽力されている宮田室長の全面的なご協力を得て、ベトナム側の講師も含めて推薦をお願いすることができ、8月には骨子が固まった。午前の部はテーマも大きいため、JOPCA内で時間をかけて意見交換し、海外の港湾管理制度の特性や課題について幅広い知識を持ち、計画作りの経験も豊富な方と言うことで、日本側はJOPCAの西島企画委員長に依頼することとなった。またベトナム側の講師は、ベトナムの港湾制度の課題や実際の計画作りに精通し、現在VAPO(ベトナム港湾・水路・海洋エンジニアリング協会)会長を務める、JICA港湾研修生同窓会のHue会長にお願いすることとし、9月に内諾を得ることができた。
 また現地港湾見学については、前回まだ海面だったラックフェン港開発が、6月に連絡道路が工事利用できる段階まで進んだことから、現地港湾工事に携わっている五洋、東亜、東洋、りんかい日産の会員各社にお願いし、さらに連絡道路施工の三井住友のご協力も得て、セミナー翌日にバスで現地事務所に直接赴けばOK、という全面的なご支援をいただけることになった。
なお今回もオプショナルツアー有りとし、拡張計画の立案が期待されているダナン港の見学会を、会員企業であるJPCの多大なご支援を得ながら企画した。
表敬訪問
 在ベトナム大使館に港湾局から出向中の林一等書記官を通じて、セミナー前日の表敬訪問をお願いしたところ、梅田邦夫大使がJOPCAの活動、特にJICA研修生との自発的献身的な交流継続に大変関心を持たれたと言うことで、19日9時から30分間とっていただき、ベトナムの発展ぶりなどについて貴重なお話を伺うことができた。
 ベトナム共産党による65%(債務/GDP)枠遵守の厳しさ、純ベトナム資本の台頭、韓国企業の進出と在越韓国人の急増(日本人2万、韓国人15万)、ASEANで日本のEV受注高が1位(ビル工事が多い)など、具体的な数字を盛り込んだ説明には興味が尽きなかった。ただ在日ベトナム人が23万人を数える中、語学留学詐欺もどきで、借金を背負わされたベトナム人が犯罪に走るのを防ぐ手立てが急務、という現実も重く響いた。帰路出口まで梅田大使に送っていただいたことは、一同何よりの感激であった。
 続いてJICA事務所を訪ね、高橋次長から、まだインフラ需要が多いにもかかわらず、前述の65%枠問題で、ベトナム政府はODAからPPP 重視に急激に舵を切ろうとしており、成長にブレーキがかかる懸念が示された。ただ港湾に関しては、ラックフェン港2期やダナン港リエンチュウ開発など、次期の具体的な開発候補があり、今後も支援していきたいとのことであった。
日本大使館で梅田大使、林書記官と面談 VAPOで古くからの港湾仲間と
15年前のJOPCA支援事業のセミナーで VINAMARINEでThu副総裁、Ha 部長と
 午後は思わぬ時間変更となったものの、VAPO訪問の際は、Hue会長に加えて、15年程前にJOPCAの海外支援事業でご縁のあった面々に迎えていただいた。当時の港湾の技術基準英語版の越語への翻訳を、VAPOの会員が分野別のチームを作って進める中で、補助員雇用と意見交換セミナーなどをJOPCAが2ヶ年に渡って支援した事業で、当時のJICA専門家だった私が前半、同中野勉さんが後半、現地でお手伝いをした。再会した皆さんは、JOPCAの活動にとても感謝され、多くがセミナーにも参加された。
最後にVMを訪ね、日本に延べ6年留学されていたThu副総裁から、所用でセミナーに参加できないが、JOPCAの活動に感謝し、交流をさらに深めたい旨、表明があった。
セミナー
 第2回日越港湾セミナーと、それに先立つJICA港湾研修生同窓会行事の全体プログラムは別表の通りである。

第2回日越港湾セミナープログラム(概要)

(2017年12月20日@ハノイ)

開会式(9:00~)
 全体進行役  Ms. Pham Thu Trang (VINAMARINE)
 開会の辞  池田龍彦 JOPCA会長 (横浜国立大学名誉教授)
 歓迎挨拶  Mr. Nguyen Xuan Sang VINAMARINE総裁
 来賓挨拶  林 雄介 在ベトナム日本大使館一等書記官
       高橋暁人 JICAベトナム事務所次長
JICA港湾研修生同窓会の会長再指名式
 趣旨説明  大津光孝 JOPCA企画委員(元ベトナム派遣JICA専門家)
 受諾挨拶  池田日本側会長及びHue ベトナム側会長
書籍贈呈式  
 「日本の港湾工事施工ハンドブック(英語版)」2部  中尾成邦 SCOPE理事長
集合写真撮影
コーヒーブレイク
セミナー第1部 <港湾の計画と管理運営>(10:00~)
 「日本の港湾の計画、開発と管理運営」   西島浩之氏(JOPCA企画委員長)
 「ベトナムの港湾の管理と運営」      Dr. Nguyen Ngoc Hue (VAPO会長)
 「ベトナムの港湾開発とJICA」       矢代博昭氏(MPI投資促進Adviser, JICA専門家
質疑応答
昼食(12:00~)
セミナー第2部<港湾施設の設計・施工>(13:00~)
 「ベトナムの国家港湾基準策定プロジェクトの全体像」宮田正史氏(国土技術政策総合研究所 港湾施設研究室長)
 「ベトナムの防波堤設計基準」  Ph.D. Nguyen Viet Thanh (交通大学土木工学科専任講師)
 「ベトナムの新港湾施設基準(施工・検収編)」       稲葉正明氏(SCOPE上席研究員)
 「日本の港湾・空港分野における地盤改良技術の最新動向」北詰昌樹氏(東京工業大学土木環境工学部教授)
質疑応答
コーヒーブレイク
閉会式(15:40~)
修了証書贈呈  池田会長及びMr. Phan Nguyen Hai Ha VINAMARINE国際協力部長
閉会挨拶    佐藤浩孝 JOPCA企画委員(元ベトナム派遣JICA専門家)
 セミナーの進行役は、前回その大役を果たし、今回はVMのセミナー担当としてメールでやりとりしてきた国際協力部のMs. Huyenに依頼していたが、別件でセミナー出席が叶わなくなり、急遽VMの付属機関の一つVMRCC(ベトナム海上捜索救難支援センター)の国際協力担当のMs. Pham Thu Trangに引き受けていただくことになった。セミナー2日前に、佐藤浩孝企画委員とともに打ち合わせに訪ねたところ、前回のセミナーに出席していて、既にメール添付資料でMCとしての準備もほぼ整っていることがわかり、セミナーに不安なく臨める状況になったことを漸く実感できた。
 また当日の受付は、前回手伝ってくれた当時の日建工学秘書Ms. Phuongと私の秘書役だったMs. Trangが特別参加して引き受けてくれ、さらにMs. Trangには終了後にベトナム側参加者リスト作りもこなしてもらい、大変助かった。
 参加者は最終的に、日本側は日本から30名、ベトナム国外から3名、ベトナム在住者12名(報道機関2名含む)の合計45名、またベトナム側は同窓会会員6名(JOPCAリストでの確認)、VM及びVM招待者等計15名(左記除く)、技術基準策定関係者17名(宮田室長リストでの確認)、日越大学関係者5名の合計43名となった。
 池田会長の開会の辞がほぼ定刻に始まり、共催者VMのSang総裁の歓迎挨拶に続いて、大使館代表として林一等書記官(急な公務で永井公使は欠席)と、後援者のJICAベトナム事務所高橋次長に、来賓として挨拶をいただいた。
VINAMARINE Sang 総裁の歓迎挨拶 JICA ベトナム事務所 高橋次長の来賓挨拶
      
 JICA港湾研修生同窓会は、日越双方の会長を選出して継続的な交流をすることにしており、今回日本側は池田JOPCA 会長を新会長に、またベトナム側は同窓会会員48名の1期生であるHue現会長に引き続き、お願いすることとされた。
続いて英語版「港湾工事施工ハンドブック」2部が、発行者であるSCOPEの中尾理事長よりHue会長に贈呈された。また恒例の集合写真撮影は、今回プロに頼み、スムーズに進んだ。
同窓会池田会長、Hue会長の就任挨拶 SCOPE中尾理事長よりハンドブックの贈呈
      
 セミナー第1部は、西島JOPCA企画委員長が日本独特の港湾の開発と管理システムを世界と比較しながら紹介、続いてHue 会長がベトナムの港湾の開発と運用、また進行中のPMB設立に向けた動きや課題を説明された。また元SCOPE理事長である矢代JICA専門家から、ベトナムの港湾開発とJICAの関わりについて今後の展望も含めて紹介があり、全体質疑では、日越双方から具体的な提案があった。計2時間と限られた中で、港湾の開発と運営は、日越に限らずどの国でも常に課題を持ちながら、時代の要請で変化を続けている、そのような共通認識が持てたのではないかと思われた。
西島講師 矢代講師
                            
 午後の第2部は、宮田国総研室長から2012年から進めているベトナム港湾技術基準の策定支援活動について全般的な説明があり、続いてThanh交通大学専任講師が本年3月にVMより施行された防波堤の設計基準について説明された。また稲葉SCOPE上席研究員から本年改訂されたベトナムの港湾施設の施工・検収基準の説明があり、最後に北詰東工大教授から日本の港湾空港における地盤改良技術の変遷と現状について、海外展開の展望を含めて紹介があった。内容に関する質疑は少なかったものの、新基準策定について、直接関与してない港湾関係者にその意義や概要を認識いただけたと思われた。
宮田講師 Thanh 講師
稲葉講師  北詰講師
 閉会式では、池田会長とVMのHa 国際協力部長から、ベトナム側参加者一人ずつに修了証書と記念品が手渡された。また日本から会員が手分けして持参した英語版「港湾工事施工ハンドブック」も配布された。佐藤企画委員から、内容の充実したセミナーを多くの参加者と共有できた、5年後のセミナーより早くまた交流する機会を持ちたい、との挨拶で締めくくられた。
ラックフェン港見学会
 翌21日、セミナー参加者のうち27名がハイフォン市郊外のラックフェン国際港建設現場に向け、ホテルを6時半に出発した。まだ市街地の交通もスムーズで、環状3号線(首都高中央環状線よりやや大)の高架部に入ると、ここ数年で見違えるほど増えた左右の高層ビル群が、ベトナムの元気を象徴するようだった。その後、2年前にBOT方式で全線105kmが完成、まだ利用まばらなハノイ・ハイフォン高速道路を、極めて快適な運行で通過し、三井住友建設の佐藤氏の説明を受けながら、工事車両用に供用した延長5.4kmのラックフェン連絡橋を渡った。
 まず現地事務所で、進行中の4つのODA工事と、既にODA工事を終え、民間事業者による桟橋や上屋工事などが進んでいるコンテナターミナルの状況について、ドローン映像などを交えながら各JV代表から説明を受けた。その後、10km以上沖合まで数カ所で進行中の航路浚渫工事や防砂堤工事の現場を往復1時間以上かけて船で見学した。最後にお世話になった現地の皆さんと一緒に昼食をいただき、JOPCAベトナムセミナーツアーの解散式とした。
 なお、22日のダナン港見学会は14名が参加し、コンテナ船と大型クルーズ船が競合する現状説明等をダナン港当局から受け、リエンチュウ地区への新規展開への期待とその必要性を認識できた。
謝辞と感想
 冒頭で紹介したとおり、現地駐在の港湾分野JICA専門家が不在の中であったが、1年前の準備開始から、前回開催時の人的ネットワークが徐々に拡大し、また太く育ち、ベトナムセミナーを成功裏に終了することができた。中でもベトナム営業所次長を兼ねる日建工学の都賀陽介さまには、ハノイを訪問する度に、ホテルとの交渉や車の手配、さらにはVMとの打ち合わせやセミナー資料の印刷などをしていただき、絶大なご支援を賜った。ここに都賀様をはじめとするご支援いただいた各位に、セミナー事務局を代表して心より感謝を申し上げます。
 ボランティアベースのJOPCAの活動は、人的つながりの継続的なケアが極めて重要との共通認識があり、海外セミナーの5年ごとの開催に加えて、さらなる取り組みも模索されている。ベトナムとの縁はより強化されたとの実感を今持っているが、細らないうちに何か次の企画ができるよう、皆さんと一緒に努めていきたい。
ラックフェン港建設工事の現場事務所で