令和5年(2023年)1月25日、オンラインにて、2022年度JOPCAセミナー『アジア諸国における「一帯一路」の動向と日本のインフラ協力のあり方 ―港湾分野を中心に― 』を開催した。 |
本セミナーは、中国の「一帯一路」の取り組みが勢いを増す中、日本が国際協力の分野でどのように対応すべきかを考える場となればということで企画したものである。参加エントリーは200名を数え、当日のオンライン参加者は150名余に達した。 |
日本は、戦後、アジア諸国に対し、最大のODA支援国として協力支援を進めてきたが、2000年代後半以降、中国の支援、投資額が日本を上回る状況に立ち至っている。こうした状況を受けて、安倍晋三元首相は2016年に「自由で開かれたインド太平洋戦略」を提唱し、質の高いインフラ整備を展開しようとしている。 |
本セミナーにおいては、中国の「一帯一路」の取り組みが進む中、カンボジア政府が日本の協力を受けて整備運営を進めているシハヌークビル港をモデルケースとして、今後の我が国の協力の在り方について議論を深めることを目的として開催したものである。 |
本セミナーでは、最初に、山縣宣彦JOPCA会長が主催社挨拶を行った後、国土交通省港湾局の遠藤仁彦技術参事官にご挨拶をいただいた。 |
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山縣 宣彦 国際港湾交流協力会 会長 |
国土交通省 大臣官房技術参事官 遠藤 公彦 様 |
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本セミナーの前半の講演の部では、まず、アジア諸国への「一帯一路」の取り組みとその影響を研究されている有識者として、青山学院大学経済学部の藤村学先生にその動向をご講演いただいた。 |
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青山学院大学 経済学部教授 藤村 学 様 |
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次に、日本やG7のアジア諸国への協力支援について施策立案・実務に携わっていらっしゃる国際協力機構(JICA)の山田順一副理事長に、「自由で開かれたインド太平洋戦略」、「グローバルインフラ投資パートナーシップ(PDⅡ)」等の動向、日本のインフラ協力の歩みと展望についてご講演いただいた。 |
国際協力機構副理事長 山田 順一 様.JPG) |
(独法)国際協力機構 副理事長 山田 順一 様 |
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最後に、日本の取り組み事例として、カンボジアの主要港であるシハヌークビル港における日本の協力支援の取り組みに関し、シハヌークビル港湾公社(PAS)派遣JICA専門家の惟住智昭氏にご講演いただいた。 |
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シハヌークビル港湾公社 JICA 専門家 惟住 智昭 様 |
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後半のパネルディスカッションの部では、JOPCA山縣宣彦会長をコーディネーターとし、ご講演者3名、JOPCA企画委員の久米秀俊の計4名をパネラーとしてパネルディスカッションを行なった。 |
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久米 秀俊 JOPCA 企画委員 |
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パネルディスカッションでは、第一に「一帯一路」の光と影について、第二に日本の協力と中国の協力の違いについて、第三に今後の港湾分野における日本の協力の在り方について議論を深めた。 |
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主な、議論のポイントは以下のとおりである。 |
1.「一帯一路」の光と影 |
(1)光 |
・インフラ整備を進めたい途上国に対し、迅速で多くの道路、港湾などのインフラ整備を提供。(藤村先生、山田副理事長) |
・日本のインフラ協力に対する競争相手となることで、日本のインフラ協力をより途上国のニーズに合ったものにしていく効果。(山田副理事長) |
・貧しくインフラが整っていなかったシハヌークビルのインフラ整備、都市環境整備に貢献。(惟住専門家) |
(2)影 |
・途上国が中国に対し、多大な公的債務を負う。(藤村先生、山田副理事長) |
・加えて、政府・自治体が関与する特別目的会社による事業への支援などによる「隠れ債務」を負い、事業が立ち行かなくなった時に政府・自治体に債務が顕在化する。(藤村先生) |
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2.日本のインフラ協力の強みと弱み |
(1)強み |
・2008年に統合設立された新生JICAは、円借款、無償資金協力、技術協力、民間連携、海外出融資の多岐にわたる協力ツールを有しており、これらツールを組み合わせ、駆使して途上国のニーズにきめ細かく応えていくことが出来る。(山田副理事長) |
・円借款によるハード整備のみならず、技術協力による人材育成、運営支援、無償資金協力による機材支援などを実施し、総合的な自立支援を行っている。(山田副理事長) |
・いろいろな支援スキームを組み合わせて、官民が連携しながら支援を継続していること。(藤村先生) |
・新生JICAがワンストップとなって、相手国の各種ニーズに応えていること。(惟住専門家) |
・JICA長期専門家が実際に相手国機関に入って、カウンターパートとともに、課題発見、課題解決に向けた取り組み、案件形成、日本政府への陽性と実施、につなげている。この密な付き合い、いわゆる自立支援の取り組みによる相手国官民との密接な関係構築が日本の強み。(久米企画委員) |
(2)弱み |
・中国の場合、民間企業が先行して製造業などへの投資、都市整備、インフラ整備に乗り込み、後から、中国政府が追いかけていく。なので、早く、諸手続きに時間を要しない。これに対し、日本は相手国政府の要請に基づいて諸手続きを進めていくので時間がかかる。(藤村先生) |
・日本の円借款整備による新CT整備は、2017年に円借款事業として合意され、事業が開始されたが、現時点で、まだ、施工事業者の選定中という段階。その遅れの原因は、カンボジア側、日本側双方にあろうが、手続きに時間を要する点について双方のさらなる協力が必要。(惟住専門家) |
・中国の場合、相手国政府に取り入ることにたけており、省庁の立派な庁舎の整備には、中国の支援が入っていると聞いている。こうした動きが日本にはない。(惟住専門家) |
・機を見て敏に動くところが弱い。例えば、高速道路について最初にマスタープランを作ったのは日本。それをまねて中国がマスタープランの中国版を作り、それに基づいてBOT事業によりプノンペン・シハヌークビル間の高速道路を迅速に整備した。民間事業者の海外展開を一層促進させる工夫が必要。(久米企画委員) |
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3.「自由で開かれたインド太平洋構想」の実現のカギ、その中での港湾の役割 |
・途上国への援助国会合がある。中国をマルチの援助国協調の調整の場に引き込み、援助の役割分担、連携に対してプレッシャーをかけていくことが必要。(藤村先生) |
・官民プロジェクトについては、日本は長い経験を持っており、ベストプラクティスをレビューし、ADBなどマルチの援助機関と連携しながら、案件形成につなげていくことが必要。中国の官民プロジェクトの実施についても、それが相手国の過度な債務につながらないよう、プレッシャーをかけていくことが必要。(藤村先生) |
・港湾は、そのインフラの利用について差別化できるインフラ。道路、鉄道はだれでも使えるインフラだが、港湾の場合、中国の軍艦で港湾が一杯だから日本の船、米国の船、その他海外の船が入れない、という事態だって生じかねない。日本が金利0.01%、30年償還というただ同然の条件で支援して整備された港湾ターミナルの運営が、他国の利用に供されることになってはまずい。これまでシハヌークビル港を始め途上国の港湾運営は直営が主流であったが、港湾運営は、PPP事業等により民営化ができるものになった。ベトナム国ラクフェン港において、伊藤忠、商船三井の日本企業が参画してPPP事業による運営を開始しており、JICAがそのPPP事業の案件形成、その実施に密接に関わり、後押しした。シハヌークビル港においても、2017年の株式上場の際、中国企業が日本のODAによる港湾施設の運営に関わることになってはまずいとの考えから、海外出融資制度を活用して出資を行った。ODAで整備をした港湾について、日本企業がしっかり港湾の管理運営に携わることが、日本の安全保障政策の観点からも重要。安全保障政策を頭に入れながら、港湾の管理運営に日本企業がかかわれるよう、JICAとしてしっかり後押しをしていきたい。(山田副理事長) |
・日本企業の海外展開を後押しする政府の取り組みとしてJOINのスキームがある。まだ、シハヌークビル港の運営への適用はなされていないが、今後の日本企業の海外進出を後押しするものとして期待。また、港湾運営のみならず、倉庫、物流センター整備運営へのJOINスキームの活用も進んでおり、物流分野への日本企業の一層の海外展開にも期待。(惟住専門家) |
・シハヌークビル港は、シハヌークビル港湾公社の直営体制で運営を行っている。今後、コンテナ取扱貨物量が150万TEUを超える段階に達すると、民間企業の運営への参画について検討する段階に至る。円借款による新コンテナターミナルの整備を迅速に進めるようPASの一員として努めるとともに、日本企業がシハヌークビル港の管理運営に関わっていけるようPASの新CT運営体制構築に関わっていきたい。また、日本企業の運営参加を後押しする支援体制、支援制度の充実も必要。(久米企画委員) |
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最後に、コーディネーターの山縣会長より以下の総括コメントを行い、パネルディスカッションを締めくくった。 |
・民間とどう協調していくかが課題。国だけ、JICAだけでは限界があるし、日本らしさを生かして中国の支援と差別化していくためにも民間企業に民間の力を発揮していただくことが必要。 |
・中国との関係で競争していく意識も必要。しかし、協調、マルチの協力についてもしっかり対応し、ベストプラクティスを示しながら一緒にやるべきところはやっていくことが必要。競争と協調を考えながら「一帯一路」と向き合っていくことが必要。 |
・日本は、FOIPを進めていくことが基本方針。プロジェクトの採算性を考えることも大切だが、一方で、プロジェクトの持つ意味、地政学的な意味を含め、技術者として認識したうえで、プロジェクトに取り組むことが必要。 |
・今日のセミナーを聴講していただいた方々には、これを機会に国際協力をやってみようと思っていただきたい。JOPCAと一緒に人材育成という面で、日本の技術者の人材育成、海外にいる人材の育成を一緒にやれたらいいなと思っている。 |
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最後に、JOPCAの藤田郁夫企画委員長が閉会の挨拶を行い、セミナーを終了した。 |
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藤田 郁夫 JOPCA 企画委員長 |
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