平成31年2月21日
第7回「技術協力のあり方を考える研究会」の開催(報告)
第7回「技術協力のあり方を考える研究会」の開催(報告)
JOPCA企画委員 八尋 明彦 
〇はじめに
 平成31年2月21日(木)午後2時半から尚友会館8階会議室においてJOPCA主催、国土交通省港湾局後援、及び(一財)国際臨海開発研究センター協賛で、「国際事業に携わる若手技術者へのメッセージ/インフラシステム輸出時代における技術協力」と題して、第7回「技術協力のあり方を考える研究会」(以下、研究会)を開催した。司会進行は八尋明彦企画委員が務めた。聴講者数は65名で、このうち国土交通省本省、地方整備局、港湾管理者、JICA、建設会社、及びコンサルタントに所属する若手技術者25名余りが参加した。
研究会の様子
 今回の研究会目的は、28年度の「技術協力のあり方(中間とりまとめ)平成29年3月」を受けて、
 ①現在の技術協力は、国の港湾政策とリンクして、我が国の強みが発揮できているか?
 ②官民の技術者は、プロジェクトの現場で、その実施に直接関与し、実体験を積むことにより、技術力を不断
 に磨いてゆく必要があるが、十分な技術の伝承と人材育成はできているか?
 ③国際協力は、中国や韓国などとの競争時代に突入しているが、我が国の競争力は大丈夫か?
 ④国際協力業務が、これまでのインフラ整備・技術協力から"インフラシステム輸出(計画、設計、建設、運
 営、管理)"時代へと変革しているが、これに対する体制は十分あると言えるか?
という問題意識の下で
 ①国内の社会基盤整備事業が減少して行く中で、官・民の若手技術者が技術力を伸ばしてゆく方策はどこにあ
 るか?
 ②技術協力には、個人の力と組織の力の双方が必要であるが、組織力の構築はどのようになっているか?
  ここで組織とは、国、港湾管理者、コンサルタント、建設会社である。組織力の構築とは、システム構築で
 あり、それぞれの組織の再構築とともに、それぞれの組織の連携強化である。
 ③国際協力に求められる技術は、開発途上国に合致した適正技術の利用が必要であるが、若手技術者がそれら
 技術を理解し利用する環境を作るためには如何にしたらよいか?
 ④国際協力に求められる技術が、要素技術から総合技術に移行する中で、これらを担う技術人像(人と組織)
 とはどのようなものか?
という論点で議論して行くことである。
 冒頭、主催者を代表して池田龍彦JOPCA会長から、上記の問題意識や論点についての挨拶があり、本研究会を契機にインフラシステム輸出時代における技術協力について考えていきたいとの挨拶があった。
 さらに後援者である国土交通省を代表して大臣官房浅輪宇充技術参事官から、政府が進めるインフラシステム輸出に対応した技術協力を考える良い機会であるという旨の挨拶があった。
挨拶する池田会長 御来賓挨拶 浅輪技術参事官
〇基調講演
 広田幸紀・埼玉大学大学院人文社会科学研究科教授から「インフラシステム輸出の課題」と題して基調講演があった。
 広田氏は、JICA東南アジア・大洋州部長、企画部長、埼玉大学経済科学研究科博士課程を修了、JICAチーフエコノミストを歴任し現在に至っている。
 人口減少による国内市場の縮小を背景に成長戦略の一つとしてインフラ輸出の促進が進められている現状で、まずは前提である海外インフラ需要がそのように推計されているのかについて説明された。
 各国のインフラ支出の規模は正確にはわかっていないこと。さらにインフラ施設の質の改善、更新、リハビリ、防災などは含まれていないこと。
 次にインフラ輸出は日本経済をどのように成長させるのかについては、民間投資、新規建設だけでは競争が激しいので維持管理需要の取り込みや環境配慮などを考慮することが必要。
 このため、国内インフラ業界の維持管理、PPP推進、都市再開発を輸出にも活かすことは生産性の改善にも効果的である
と、60分間に及ぶ熱弁をふるわれた。
基調講演・広田教授
〇パネルディスカッション
 渡部富博・京都大学経営管理大学院特定教授をコーディネーターとして、「インフラの国際展開に関わる技術・人材育成を考える」というテーマでパネルディスッカションを行った。
 安達一JICA社会基盤・平和構築部長からは、
 アジアはJICAの古くからのODA相手国であり、技術を持つ現地企業も成熟しつつあり、日本と協働でプロジェクトを行う可能性を秘めている。
 一方アフリカはこれからの港湾におけるメインフィールドになる可能性がある。日本のゼネコン・マリコンと現地コントラクターとの協働経験が蓄積しているアジアの国々とタッグを組み、アフリカ等の第三国に進出してはどうか。
 途上国が自力で技術開発ができるようにベースとなる技術基準の策定を支援してはどうか。
 またリバース・イノベーションとして、海外で日本の技術を実証・経験し、日本の現場にフィードバックする方法もある。
 手国と日本の双方にとってWIN-WINとなる。維持管理と新規建設は、相手国のアクターが違うのを留意しなければならないなどの発言があった。
コーディネーター・渡部氏 パネラー・安達氏
 高風博行・日本工営(株)コンサルタント海外事業本部港湾・空港部長からは、ケニア・モンバサ港に行っているSTEP案件を事例に挙げて、
 相手国が何故高額な鋼管杭によるプロジェクトを導入したかについて、シルテーションや環境への軽減などの理由付けについて説明。
 また、人材育成については、社内の海外におけるOJT研修制度や施工管理への派遣などについて説明。
野口哲史・五洋建設(株)専務執行役員・土木本部長からは、
 入社時に半数以上の海外勤務希望者が10年後激減する実態を紹介され、その対応として部門間連携が重要であると問題提起。
 シンガポールに海外拠点を移し、近年大型案件を受注できるようになったが、長年付き合いと信頼関係がその背後にある。
 我が国の持つ維持管理技術やICT建設技術は他国と比較優位である。日本の要素技術だけを売りにするのではなく、総合技術としてアピールすべきである。
 仕様競争では負けるので性能、技術力競争で戦う必要がある。他方、日本の独自技術だけに拘らずライバル国の技術とも比較しながら、その技術の摺り合わせも考えていってはどうか。
 社内の人材育成は、7年間で一人前になるように多くの研修プログラムを準備している。国内外のサイクルも活発化したい。
 最後に、各パネラーから語学の習得については、仕事もさることながら私生活を楽しむにも上達が必要などのアドバイスがあった。
パネラー・高風氏 パネラー・野口氏
 最後に、協賛である(一財)国際臨海開発研究センターの三宅光一専務理事から若手技術者の参加に対する感謝、技術者としての日々の切磋琢磨などについてのコメントと共に閉会の挨拶があった。
〇交流会
研究会終了後、同じ会議室にて交流会が開催された。
 魚住聡・港湾局産業港湾課長の乾杯で始まり、研究会で聴けなかった点など交流会でも広田教授や渡部教授、及び3名のパネラーらと聴講者らとの意見交換が続いた。
 途中で若手聴講者に対して、研究会の感想やコメントなどの1分間スピーチをやってもらった。国際協力に対する決意や情熱が感じられるスピーチが多く頼もしい限りであった。
 併せて3月に在外公館に赴任する滝川尚樹氏・在ミャンマー日本国大使館、木原弘一氏・在モザンビーク日本国大使館、及び石松和孝氏・在ロシア日本国大使館の紹介があった。
 最後は、このうち滝川氏の中締めで賑やかな中で終了した。
〇まとめ
 今回の研究会の詳細な内容については、後日HPへ掲載する予定である。聴講者に対して本研究会のアンケート提出をお願いしており、その結果分析を行って、今回の聴講者へのフォローアップを含めて今後の本研究会の方向性を検討していきたい。
 今回のテーマである「インフラシステム輸出時代における技術協力のあり方」は、29年度の中間とりまとめを受けてスタートし、今回で2回目の企画であった。池田会長にアドバイスを頂きながら、広田教授や渡部教授をはじめパネラーの皆さんや港湾局国際企画室との議論を通じて論点を絞り込んでいった。
 今回の研究会をきっかけに本テーマについてさらに議論が深化・展開していき、さらに若手が関心を深めてもらえれば幸甚である。
 最後に、昨年10月から5ヶ月にわたる準備と当日の貴重なプレゼンテーションをして頂いた広田教授やパネルディスカッションをコーディネートして頂いた渡部教授、さらに3名のパネラーの方々には改めて心底から敬意と感謝を表したい。